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フォルクスワーゲン乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEOに聞く エンジン車は、ゴルフは今後どうなっていく?

2024年4月12日 開催

独フォルクスワーゲン乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEOがオンラインでグループインタビューに応じた

 独フォルクスワーゲン乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEOは4月12日、日本の報道陣向けのグループインタビューにオンラインで応じ、2023年の振り返りや今後の展開などについて語った。

 2023年のフォルクスワーゲングループを振り返ると、ヨーロッパや北米における販売台数の増加により、売上高は前年比15%増となる3223億ユーロを記録。営業利益は226億ユーロで前年と同じ水準を維持した。BEV(バッテリ電気自動車)の販売台数は前年比35%増となる77万1000台、グループにおけるBEVの販売シェアは継続的に増加し、8.3%に向上したという。

 日本市場では3万1809台を販売。特にSUVが堅調で、「T-Roc」が2023年の輸入SUVカテゴリーでNO.1、「T-Cross」がNO.2となり、BEVの「ID.4」が2023年下半期の電動SUVとしてNO.3になるなど、SUVファミリーが成功を収めた年となった。

 一方、フォルクスワーゲンは2023年からブランド全体で“Love Brand”というメッセージを積極的に発信している。愛されるブランドとしての立ち位置をもう1度取り戻す、という意味を込めて展開しているメッセージだが、これには例えばデジタル化が進む中で「直感的に操作したい」「シンプルに操作したい」というニーズがユーザーから挙がっており、こうした部分の改善も含め“Love Brand”を提唱しているという。

 そうした“Love Brand”を展開してから1年。現在のフォルクスワーゲンはどうなっているのか、また今後どうなっていくのか。シェーファーCEOが回答した。

 なお、シェーファーCEOは冒頭、2024年に日本市場に導入するモデルについても触れ、100kmのEV走行が可能なプラグインハイブリッドモデルを導入すること、年後半に大幅改良を加えたゴルフ8.5を発売すること、T-Cross、パサート、ティグアンなどの新型車も導入するとアナウンス。さらにID.Buzzを2025年に投入すると述べるとともに、「今は過渡期なので内燃エンジンモデルと電気自動車の2本柱で進めていきますが、これは非常に重要なことだと考えます。ただ、フューチャーイズエレクトリックということははっきり決まっており、2027年までに全世界で11の新しいモデル(BEV)を導入する予定です。それ以降は新しいプラットフォームを採用したeゴルフなどが控えています」などと予告した。

ゴルフ8.5(写真はGTE)

新世代ゴルフはBEVのみ。しかし「私たちとしては柔軟に対応する用意がある」

――“Love Brand”についてあらためて定義をしていただけますか。フォルクスワーゲンが考えるLoveというのはどういうことですか?

シェーファーCEO:フォルクスワーゲンはおかげさまで皆さまに愛される、本当に力のあるブランドで、例えば一般の方から大学教授、企業の社長ですとか、そういった方も含め幅広い方に愛されるブランドです。歴史も非常に長く、どこに行ってもフォルクスワーゲンと言うと皆さま笑顔を浮かべて「テクノロジーいいよね」とか、「こういう体験を自分がした」といったことを語ってくださいます。

 ただ、私がフォルクスワーゲンのCEOに就任した時には、ややそのブランドのその温かみが欠けていたと思うんです。あまりにもそのテクノロジーにフォーカスをしすぎていた感があります。なので、ブランドとして皆さまからいただいている愛をちゃんとお返ししようということで、お客さまにフォーカスした取り組みというのを現在行なっております。

 具体的には品質をより良いものにしたり、お客さまのサービスを向上したりですとか、あとデザインやユーザーエクスペリエンス、例えばシンプルなテクノロジーを使うといったものも含まれます。それだけにととどまらず、例えば広告宣伝ですとか、私たちがお客さまにどう訴えかけるか、どう語りかけるかというところも今までは温かみに欠けていたので、より人間味のある温かい形で進めていきたいというのが“Love Brand”です。

――“Love Brand”というメッセージを世界的に発信されておりますけども、“Love Brand”を経てフォルクスワーゲンとしてどういう発展を遂げていきたいのか、改めてお聞かせください。

シェーファーCEO:まず、その戦略自体に一貫性がなければいけない。つまり、インターネットで最初にお客さまが接触するとき、広告サービス、それから店舗も含めて全てのお客さまとのタッチポイントで一貫していなければいけないというのがあります。

 そういった意味では、例えばデザインランゲージを刷新したりですとか広告宣伝のやり方、それからユーザーエクスペリエンスも見直しました。例えば、これはメディアの皆さまからもご指摘をいただいたのですが、ステアリングホイールのボタンをぜひ復活させてほしいとお客さまから要望があるとのお話をいただきましたので、今回実際に復活をさせております。時々、技術に走りすぎて1歩先を行き過ぎてしまうことがあるかと思うのですが、お客さまからのご指摘ということで今回それを戻しました。

 それから新商品にも改良を加えておりまして、それが例えば新型ティグアンですとかパサートといったモデルで目に見える形で今出てきておりますので、そういった新型車を見ていただけると、この“Love Brand”の意味がより明確にお分かりいただけるのではないかと思います。

――欧米ではこれまでEVシフトがかなり進んできたと思いますが、一方でハイブリッドなどの人気が高くなってきているかと思います。そういった動きをフォルクスワーゲンとしてどのように見ているのか、今後の戦略についてもお伺いできたらと思います。

シェーファーCEO:トレンドとしてはやはりその国によってかなりペースが異なるという印象があります。アメリカ、中国、ヨーロッパ、日本、韓国など国によってそのペースがかなり異なるというのが現状だと思います。もちろん、その国によって法律も違いますので致し方ないことだとは思うのですが、例えば半年から8か月ぐらい前にハイブリッドとかプラグインハイブリッドについてどうですかと私が聞かれてたとしたら、やはりここの技術についてはそれほど急速に発展していないから、おそらく国によってはサポートもしてないし、未来はないだろうねと答えてたと思うんです。それは半年から8か月ぐらい前に聞かれたらの話で、その時は実際に電気自動車ですとか水素の技術の開発の方が早いと感じておりました。ただ一方で、中国ではかなりプラグインハイブリッドにシフトしていますし、アメリカでも新しいトレンドが出てきてます。日本はハイブリッドが盛んな国なので、今また新しい傾向が出てきたなと思っております。

 実際に私たちも、今度のパサート、ティグアン、ゴルフについてはバッテリだけで100km走れるプラグインハイブリッドを搭載しておりますので、プラグインハイブリッドという意味で私たちもちゃんと技術は持っています。ただ、最終的にカーボンフリーのモビリティを達成しようと思ったら、これは電気自動車か水素しかないと思っています。ほかにももしかしたら技術はあると思うんですけども、フォルクスワーゲンのいるボリュームセグメントに限っては、やはり電気自動車しかないだろうと思っています。

 ただ、法律の整備ですとか国によってペースが違うので、当面は電気自動車とその他の内燃エンジンも含めてミックスした時代がしばらく続くのかなと思っています。基本的にはお客さまは自分が乗りたいクルマをお選びになるわけなので、お客さまがどれをお選びになられても、私たちはそのお客さまのご要望に応えられるようにラインアップを揃えております。

――2つ質問があります。1つはビンテージカーラリーを開催(シェーファーCEOが就任直後、そして2023年に従業員を対象に実施)した狙い。もう1つはシェーファーさんのフォルクスワーゲンに対する愛、あるいは自動車に対する愛をお聞かせいただきたい。フォルクスワーゲンブランドを率いるトップとして、どういうパッションをクルマに対して、あるいはブランドに対して持っているかということを知りたいです。

シェーファーCEO:なぜビンテージカーラリーを実施したかということですが、これは“Love Brand”チームのため、チームの団結を強めるために行ないました。

 私たちの社員は皆フォルクスワーゲンのクルマが大好きなんですけども、今回そのラリーを行なった理由というのは誰のクルマが1番カッコいいとかそういう話ではなくて、とにかくフォルクスワーゲンのクルマを持ってきて、皆で集まって、家族を連れてくることによってもう1回団結しようということだったのです。

 私はCEOとしてこのブランドにはポテンシャルがあると思っております。これまで出張で、もしくはその赴任先でいろいろな国を見てきました。アフリカやアメリカ、アジアもたくさん見てきましたが、ここまでヘリテージがあって誰からも愛される、本当にウェルカムされるブランドというのは他にないと思うのです。ビートルに始まり、伝統がありながらすごく未来志向であるという、本当にユニークなブランドだと思うので、そのジャーニーに私も参加できるということはとても嬉しく思っています。

 なのでこの先、私の後任に引き継ぐときにはフォルクスワーゲンというブランドがいい形になった状態で引き継ぎたいなと思っておりますので、それまでの間、私はこのブランドの管理人だと思っております。

チームの団結を強めるために行なったというビンテージカーラリー。カーガイとして知られるシェーファーCEOらしい取り組みの1つ

――一般に電気自動車の時代になり、自動運転になるとなかなか他社との差別化が難しいと思うのですが、電気自動車と自動運転時代において愛されるブランドであるには何が大事だと思われますか。

シェーファーCEO:これはとにかくカスタマーエクスペリエンスに尽きると思います。私たちの役割は新しいテクノロジーとお客さまを繋ぐことなので、車中で必要とされるものをお客さまに提供する。例えばそれが航続距離だったり、充電スピードだったり、インフォテイメントであったり、安全性であったり、いろいろなものがありますけども、要するにそういったものでお客さまをサポートしなければいけない、お客さまを混乱させたり邪魔したりしてはいけないと思うのです。なので、われわれのクルマによってお客さまがより良い生活ができることを私たちは目指していて、そここそがまさに差別化の要因だと思っております。

 なので、航続距離はこっちのブランドの方が長いよねとか、搭載するレーダーはこっちのメーカーの方がいいよねといったことはあるかもしれませんが、結局はそのトータルのパッケージングとしていいものでなければいけない。それによってお客さまに気に入っていただかないと完璧とは言えないと思うので、目指すところはそこだと思っています。

――“Love Brand”の戦略を始めてすでに1年以上が経っていますが、実際にどのような成果が現れているか教えてください。

シェーファーCEO:そもそも“Love Brand”の長い道のりを始めたのは、最初は商品だったのです。理想的なポートフォリオを確立するためにはどのモデルで、どういう見た目で、どういうデザインにしたらいいのかというのを1番最初に考えました。見てすぐにフォルクスワーゲン車と分からなければいけないというのが最初にあり、モデルごとにはっきりキャラクターが立っていなければいけない。それと、体系的にユーザーエクスペリエンスを提供しなければいけないと考えており、例えばよく使うボタンを上にレイアウトするとか、とにかくお客さまの期待に合ったものにしなければいけないということを最初に始めました。

 そしてその商品の部分はもう完了しました。いろいろなリサーチやクリニックを行なって、非常に素晴らしいフィードバックをいただきましたので、これはもう完了したと思っています。次にマーケティングですとか広告のやり方を変えるという段階に入ったのですが、それまでフォルクスワーゲンの広告というと、実際にいないような人が出てきて、一体これ誰? 変な人だよねというのがあったので、もっと親しみを感じられるような人を広告やマーケティングに出すようにしました。

 なので、さきほど言った通り商品は完成し、その広告活動も行ない、それから社員については先ほどビンテージカーラリーの話が出ましたけども、それも取り組みの1つです。戦略の整理が完了し、これからまさに実行の時で、ここが本当に大事なところになります。しっかり実行していき、モダンなテクノロジー、未来の商品にしっかり投資できるようにしていきたいと思っています。

――ネクストジェネレーションのゴルフはBEVだけになるという話がありました。ただ、昨今のBEVのスローダウンを考慮して、例えばハイブリッドバージョンを開発するとか、あるいは他の内燃機関を搭載した次世代ゴルフを開発するお考えはありますか?

シェーファーCEO:基本的にはおっしゃる通り、今のところゴルフ9は完全電気自動車だけで、SSPプラットフォームをベースにしております。プロポーションという意味でもパフォーマンスという意味でも、本物のゴルフに仕上がるはずです。2024年、日本にゴルフ8.5を導入しますけども、これは過去最高の、1番出来のいいゴルフと言ってもいいです。プライグインハイブリッドはモーターだけで100km走れますし、インテリアも最高のクオリティのものを採用しております。このような素晴らしいモデルが、ライフサイクルを考えるとこれから2~3年ということになりますけども、その次のBEVとなるとさらにその先なので、2020年代終わりの方の導入になります。

 これについてははっきり決まっていて、今のところBEVであるということに決まってはいます。ただ、私たちとしては柔軟に対応する用意がありますので、もし急速に状況が変わるようなことがあれば、もしかしたら再検討することもあるかもしれませんが、今のところはSSPプラットフォームでやるということは決まっております。

 ただ、(現行BEVシリーズの専用アーキテクチャである)MEBプラットフォームについても引き続き改善・改良を加えておりますので、これから2020年代の終わりまでは航続距離が伸びたり、充電時間が短くなったり、ソフトウェアが改良されたりということはあると思います。

――それに関連して先月、ルノーのルカ・デメオCEOがいわゆるヨーロッパ勢によるピープルズカー(安価なBEVの普及)を提案しました。これは中国製BEVに対抗する目的だったと思います。これに対し、フォルクスワーゲンブランドとしてどのように答えますか。

シェーファーCEO:基本的にわれわれはグローバルでビジネスを展開しており、ヨーロッパだけで事業を展開してるわけではありません。ヨーロッパではBEVもある一定程度まで普及できだと思うのです。そうなると次にエントリーレベルのBEVの需要が高まる。電動化を進める1番簡単な方法は、まず最初に大きいクルマから始めることです。大きいバッテリが積めますし、コストもかかるのでどうしても大きいモデルから始めることになるのですが、普及が進むとエントリーモデルへの需要が高まってくる。なので、ルカ・デメオさんはその手の届きやすいモデルという意味でのご発言だったと思います。

 フォルクスワーゲンでは「ID.2all」というモデルを2万5000ユーロ以下の価格帯で出す予定でおりますので、それは本当に大きな1歩になると思います。発売は2025年末から2026年になると思います。そこで私たちは終わりということではなく、さらに2万ユーロ以下のBEVの開発に現在フォーカスしています。特にフォルクスワーゲンというブランド名である以上は、誰もが買えるBEVを開発する使命を負っていますので、エントリー車の開発を今後も引き続き行なってまいります。

 このトレンドというのはその他の地域でも見られますので、やはり一定の台数を出そうと思ったら普及モデルはどうしても必要になってくる。私どもとしてはしっかりプランもございますし、まだ結論は出ておりませんけども、検討は引き続きしてまいります。

ID.2allは166kW(226PS)を発生する駆動モーターを前輪に搭載し、航続可能距離は約450km(WLTP)。目標価格は2万5000ユーロ以下とアナウンスされている

――ラインアップについてのお考えを伺いたいと思います。ゴルフはこれからもラインアップの中心にあるクルマでしょうか。それと同時にもう1つ伺いたいのが、フォルクスワーゲンは例えばBMWが1、2、3、4、5、6、7とシリーズを確立してるのとちょっと違って、あまりラインアップの確立がうまくいってないように思うのですが、それについてのお考えを聞かせていただけますでしょうか。

シェーファーCEO:まずゴルフに関しては今後もブランドの中核であることは変わりありません。グローバルで見て1番大事なのがゴルフかと聞かれると、実際に台数だけで見るとティグアンなどのSUVの方が売れているのは確かです。特に北米や中国、ヨーロッパ以外でも生産しているというのもあります。なので台数ではティグアンが1番です。ただ、フォルクスワーゲンというブランドを見た目や雰囲気、バリューで1番よく体現しているのはやはりゴルフだと思うので、ゴルフの重要性は今後も変わらないと思います。

 ラインアップについては確かに現在は過渡期です。基本的にはフォルクスワーゲンというのはゴルフやパサートといった名前をつけるというのがラインアップの構築の仕方なのですが、一方でID.シリーズについては1、2、3という数字を使っております。今後どっちの方向に進むのかということに関しては、これからは名前です。今は過渡期なので名前と数字が併存していますけども、2020年代末ぐらいまでに整理して、ちゃんと名前をつける方向で進んでいきますのでもう少しお待ちください。

――ID.3からVW.OSを導入されているかと思います。次期OSが2025年に予定されていると伺っていましたが、それが遅れているという報道が一部ありましたが、次期OSの実装の時期というのはスケジュール感としてはどれぐらいを見通していますか? それに関連して、今後SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)が増えるとリカーリングビジネスも活発になっていくかと思います。そのあたりのビジネススキームなどのお考えをお伺いできますでしょうか。

シェーファーCEO:フォルクスワーゲンとしては2018年から2019年あたりに自前のソフトウェアのOS開発を始めました。CARIADという自前のソフトウェア会社を持っているのですが、そこでOSを含めたエレクトリックアーキテクチャの開発を行なっています。いろいろなアーキテクチャがあるのですが、現在使っているのはEQ1.1というもので、これは今後もさらに開発を進めていきます。特にお客さまとのヒューマンインターフェースを考えたときに、自前のOSの会社を持っているというのはすごく強みだと思います。昔は自前でソフトを開発する必要なんかないよと言われたり、大きいテックカンパニーと提携すればいいじゃないかと言われたりしたのですが、今は当時の判断は正しいものだったなと思っています。

 次のステップとしてはやはりそのSDVだと思うんですけども、これからはそのソフトウェアがリードする時代だと思います。昔はまずクルマを開発して、そこにエンジンを乗っけて、そこにどういうソフトウェアを載せようかという話だったのですが、これからはまずソフトウェアアーキテクチャありきで、それに合うモデルはなんなのかという開発の仕方になると思うのです。ソフトウェアがリードする時代がもう来ると思いますが、うちにもそのSDVはありますし、CARIADの中にもエキスパートを要する専門チームがございますので、そこでステップバイステップで開発を進めまいります。

 フォルクスワーゲングループ全体では、ポルシェやアウディ、フォルクスワーゲンなどいろいろなブランドがありますので、それぞれのブランドにステップバイステップで導入をしていきます。いつまでというのは、正式なタイムラインはまだないですが、すでに導入は始まっていますし、ソフトウェアが今後のフォーカスであることは間違いありません。

――先ほど「未来はエレクトリック」というお話をされましたが、足下のBEVのスローダウンというのは一過性のものとしてご覧になっているということでしょうか。もし一過性のものだとしたら、その理由を教えてください。

シェーファーCEO:一部の地域で電動化が減速してるのはいくつか理由があると思います。例えばヨーロッパだとウクライナ戦争に端を発した電気代の値上がりですとかガスの供給が不安定だったりと、地政学的な理由で電動化に少しブレーキがかかっているというのがあります。それと金利が高くなっているので、なかなかファイナンスを組むのも大変という理由もあります。所有に関わるコストが上がってきているというのも理由として挙げられると思います。これはなんとかしなければいけないと思っておりますけども、最近になって金利が下がり始めてきてるので、これはいい傾向だと思っています。

 あとヨーロッパ、特に北欧地域はかなりBEV化が進んでいます。これは国によって政府の意図、つまり補助金をどれだけ出すかだったりとか、あとは充電インフラがどれだけ進んでいるかなど、いろいろな要素によると思います。ただ、本当に環境に影響を与えないカーボンニュートラルのモビリティを実現しようと思ったら、やはり電気自動車もしくは水素なしでは達成できないと思います。

 これは先ほども言いましたが、いろいろなテクノロジがある中で、フォルクスワーゲンのボリュームゾーンに関しては電気自動車が1番効率がいい方法だと考えています。もちろんハイブリッドも素晴らしい技術ですし、それはそれでいいと思うのですが、やはりお金もかかるので、過渡期だけということであればハイブリッドもオッケーだと思いますが、長期的に見るとやはり電気自動車しかないと考えています。

 これまでBEVはいわゆるアーリーアダプター、新しいものが好きな人たちだけが買っているような時代だったと思いますが、実際皆さんも電気自動車に乗ったことがあると思いますが、1回乗ったらもうガソリン車に戻りたくないですよね。家で充電できる、こんな便利なことはないので、もうちょっと普及するには時間がかかるとは思いますが電動化しかないと思っています。

――規制やカーボンニュートラルのことを考えるとBEVが1番効率的というのはおっしゃる通りだと思うのですが、これもまたおっしゃった通り、ユーザーに買っていただかなければいけない、ユーザーにBEVがいいと思ってもらわないといけないと思うのですが、そのためにフォルクスワーゲンとしてはどういったことをしていきますか? 例えば価格を下げるためにどういったことをしていきますか。

シェーファーCEO:やはりお客さまとしてはとにかくいい商品、エキサイティングな商品を望んでいらっしゃると思いますが、それはフォルクスワーゲンはできていると思います。本当に素晴らしいラインアップが揃ってますし、日常使いができて、航続距離も長く700kmぐらい走れますから、ほとんどのお客さまに十分すぎるぐらいですよね。充電も急速にできる。

 あと必要なのが手の届く価格で出せるかどうかというところだと思うのですが、ここはコストの管理を徹底して行なってまいります。おかげさまで、私たちの会社はスケールメリットがありますし、複数のブランドがありますので、そこのメリットを活かしていきたいと思っています。

 その電気自動車の軸になるのがバッテリだと思うのですが、その原料の調達から一連のサプライチェーン、ここをコントロールすることが大事だと思います。そうすると、一連のサプライチェーンの中でどの部分だったらコストが下げられるかというのが見極められると思うので、そのサプライチェーン全体を管理することがすごく重要だと思います。実際に電気自動車のコストの40%はバッテリなので、とにかくバッテリだと思っています。

 フォルクスワーゲングループにはPowerCoいう自前のバッテリセル工場がありますし、ドイツ、スペイン、カナダ(バッテリセルの工場を稼働させる現在の予定は2025年にドイツ、2026年にスペイン、2027年にカナダ)に工場を持っておりますので、そういった意味ではコストのコントロールもある程度できるのではないかと思っております。

――シェファーさんはエンジン好きですよね? 私たちもエンジンにはクルマの楽しさがたくさん詰まってると思うんですけれども、その一方でID.2allのGTIがミュンヘンで発表された時に興奮したのですが、BEVでどうやって“Love Brand”になっていくのか、ドライブの観点から説明していただくことはできますか。

シェーファーCEO:先ほどおっしゃったID.2allのGTIというのは本当にいい例だと思います。確かにフォルクスワーゲンにはゴルフGTI、ゴルフRなど、素晴らしい伝統がたくさんあります。実際にそれが名前にも残っていますけども、未来に向けてはその昔の素晴らしいヘリテージをそのまま電気自動車で置き換えるというのはやはりダメだと思うのです。

 皆さんおそらくID. Buzzを見てかっこいいと思っていただけると思うのですが、全然見て古くさくないじゃないですか。GTIも本当にたくさんの方に愛されていますけども、ではそのGTIをそのまま未来の電動車に移植したらいいのかというと、そういうことではないと思うのです。やはり大事なのは運転性能だったりタッチアンドフィール、それからユーザーエクスペリエンスという意味でDNAのどこの部分を電動化に移植するか、どうやって解釈して電動化に移植するかというところだと思います。それは先ほど言ったタッチアンドフィールもそうですし、ノイズもそうですし、走行性能もそうだと思うのです。今まで受け継いできたものを全て解釈して全て移植するだけではやはりダメだと思うので、DNAのどの部分を解釈するかというのを取捨選択して電動化に移植することが大事だと思います。

――ハイブリッドではないバッテリウェアのトランジションがまだまだ完全には起きないと考えると、まだしばらくはBEV専用のプラットホームアーキテクチャを使ったクルマと、エンジンを積むためのアーキテクチャのクルマが2種類併存していくことになると思うのですが、これはいつまで続くことになるのでしょうか。ゴルフとID.3のように同じセグメントで同じようなユーザーが買うはずなのに、なぜ電気自動車だけ突然違うクルマ、別のクルマになってしまうのかというのは、ユーザーがずっと困惑し続けるんじゃないかなと思うのです。フォルクスワーゲンがCセグメントに出すクルマはこれが1番、というのがいくつもあるのはなにか変だなと見えるのです。そういう戦略をいつまで続けるのかなというところを伺いたいです。それに絡んでですが、電動化というのは単にエンジンをバッテリとモーターに変えるというだけの話ではないと思っており、デジタル化やSDVなどの価値というのは逆にエンジン搭載車のユーザーも享受したいことではないかと思うのです。そういうことも行なっていくと考えていいんでしょうか。

シェーファーCEO:2問目の方から先にお答えすると、デジタル化=電気自動車ではないと思うのです。実際に電気自動車に使っているアシスタントシステムなどはエンジン車にも採用しております。ヨーロッパで内燃エンジンを売らなくなるのがおそらく2030年代の初めぐらいだと思いますけども、多分ヨーロッパ以外の地域はそれよりももうちょっと先になると思うので、それまでの間、やっぱり内燃エンジンのモデルもちゃんとリフレッシュしなければいけないと思っています。おっしゃる通り、過渡期ということで非常に難しい時期ではあるのですが、当面は両立させなければいけないと思っております。つまり内燃エンジン車、ハイブリッドモデルを持ちつつ、SDVやバッテリセルの改良もしなければいけないというのは当面続くと思います。

 これからの2~3年、自動車業界にとって本当に重要な時期になると思うのです。いろいろなことを同時にやらなければいけない。なのでその経営資源をバランスよく配分しなければいけないという大きなチャレンジがあります。1年前はフォルクスワーゲンは内燃エンジンに投資しすぎるんじゃないかと批判されたこともありましたが、今やそれがむしろ強みになっているのです。電動化と内燃エンジンの2本柱の戦略はうまく機能していますし、むしろ素晴らしいと褒められることも増えてきました。

 今後10年ぐらいは両立させていかなければいけないと思っています。実際に選ぶのはお客さまで、お客さまにこっちに乗りなさいと指示することはできませんから、ニーズに合うものを引き続きご提供していきたいと思っております。