【インタビュー】STI、「エクシーガ ts」の開発者に聞く
7人乗りミニバン最速、EJ20型ターボとSTIの足まわりを持つクルマ


 STI(スバルテクニカインターナショナル)が発売したエクシーガのコンプリートカー「tS(ティーエス)」。エクシーガのマイナーチェンジと同時に発売され、tSと名付けられていることから分かるように、エンジンなどはベース車そのままに、足まわりや内外装にSTIの手が加わったモデルだ。

 エンジンはベース車そのままとはいえ、EJ20型水平対向4気筒DOHC 2.0リッターターボを搭載し、最高出力は165kW(225PS)/5600rpm、最大トルクは326Nm(33.2kgm)/4400rpm。5速ATを介して、4輪を駆動する。

 現在スバル(富士重工業)は、ショートストロークタイプのEJ型から、よりストロークの長いFA/FB型に水平対向エンジンを切り替えつつある。ターボにおいても、レガシィにDIT(直噴ターボ)エンジンが用意されたことから、いずれEJ型エンジンは収束に向かうと見られており、旧来のスバルらしさを持つターボエンジンを搭載した7人乗りミニバンのコンプリートカーになる。

エクシーガ tsで用意されるボディーカラー、写真はアイスシルバー・メタリックサテンホワイト・パール
クリスタルブラック・シリカWRブルー・マイカ

 このエクシーガ tsは、どのような狙いをもって製作されたのだろうか。エクシーガ tsの開発を担当した、STI 商品企画部 商品企画課 課長 神作淳氏にお話をうかがった。

STI 商品企画部 商品企画課 課長 神作淳氏

足まわりに徹底的に手を入れた
 神作氏によると、このエクシーガ tsも、ほかのSTIコンプリートカー同様、コンセプトに「Sport, Always !(スポーツオールウェイズ)」を掲げ、すべての搭乗者が気持ちよいと感じるスポーティな走り味、同社が提唱する強靭でしなやかな走りを追求していると言う。

 とくにベースとなるエクシーガが7人乗りであり、ファミリーユースとしの使い方が想定されることから、7人乗車時でも決して快適性を損なうことのないよう配慮したと言う。

 tsであるため、足まわりには徹底的に手が入っている。STI製チューニング・倒立式フロントストラット、STI製チューニング・リアダンパー、STI製コイルスプリングといった基幹部品から、STI製フレキシブルタワーバー、STI製フレキシブルドロースティフナー、STI製サポートフロント、STI製フレキシブルサポートリヤといった、最近のSTIコンプリートカーには欠かせない、強靱でしなやかな走りを実現するためのボディーの剛性コントロールパーツ。そして、215/45 R18のブリヂストン ポテンザ RE050Aタイヤと、STI製18インチ×7 1/2Jアルミホイールなど。これらにより、ベース車より10mmローダウン。ローダウンにより、ディメンションが若干変わった結果、トレッドは標準車からプラス5mmの1530/1535mm(前/後)になるとともに、各種パーツの変更で車重は10kg重くなっている。

STI製チューニング・倒立式フロントストラット、STI製コイルスプリングブレンボ製17インチ対向4ピストンフロントベンチレーテッドディスクブレーキ(STIロゴ入り)
STI製チューニング・リアダンパー、STI製コイルスプリングブレンボ製17インチ対向2ピストンリアベンチレーテッドディスクブレーキ(STIロゴ入り)

 これらが比較的表に見える変更だとしたら、見えない変更も多数行っていると神作氏は言う。「STI製フレキシブルタワーバーなども装備していますが、ブッシュ類についても多数変更しています。ロアアーム関係のブッシュとスタビライザーの特性の変更も行っています」と語り、とくにスタビライザーでは、リニア(直線的)な効きに変更して、STIならではの乗り味を作り出している。

 STI製フレキシブルドロースティフナーは、剛性をサポートする補剛パーツと位置づけられるもので、ボディーとステアリングギヤボックスをこれによって接続。プリロードをかけることで、コーナリング時のタイヤの応答性を高めると言う。これは、プリロードをかけた結果、各パーツの遊び的要素が排除されることにより、サスペンションの動きがスムーズになり、結果、タイヤがきちんと動くようになると言う。

 このSTI製フレキシブルドロースティフナーは、SUPER GTに参戦するBRZにおいても、先日行われた第7戦オートポリス戦から投入されており、レーシングスピードでも優れた効果を発揮している。レーシングマシンから市販車へのフィードバックではなく、市販車からレーシングマシンへのフィードバックが多いのもSTIの特徴で、ニュルブルクリンク24時間レースに参戦したインプレッサでも、STI製フレキシブルタワーバーフロントとSTI製フレキシブルドロースティフナーを投入し、ニュルブルクリンクのさまざまな路面において、よい結果を得ているとのことだ。

エクシーガ tsに搭載されるEJ20型ターボエンジン神作氏が指しているのが、STI製フレキシブルタワーバーシャシー下面に取り付けられたSTI製フレキシブルドロースティフナー

エクステリアとインテリア
 エクステリア面では、STI製フロントアンダースポイラーや、STI製リアアンダースポイラーを装着。これらは空力的な検証を行っており、主にCl(上下方向の力)のバランスを考えた形状だと言う。空気抵抗についても気になるところだが、「車高が下がっていることで、前面投影面積が減っています」とのこと。空気抵抗は、抵抗係数(Cd値)と前面投影面積を乗算して算出する値などが基礎となっているので、その面でよい影響があるようだ。

STI製フロントアンダースポイラーSTI製リアアンダースポイラーとSTI製スポーツマフラー(φ100×2、STIロゴ入り)

 ちなみに、この10mmローダウンという値は、スタイリングのかっこよさを求めるために行われている。「低ければ低いほどかっこいいのですが、快適性にネガティブな部分が出ないようにしてあります」(神作氏)とのことで、スタイリングと快適性、そしてパフォーマンスのバランスを取りつつ、最終的に10mmローダウンとなったようだ。また、215/45 R18の ポテンザ RE050Aタイヤと18インチのSTI製アルミホイールも、パフォーマンスはもちろん、スタイリング的な要素も考慮されている。アルミホイールから見える、フロント対向4ピストン、リア対向2ピストンのブレンボ製ブレーキについては、「STIコンプリートカーを求めるお客さんは、ブレンボ製ブレーキを望むようです。これまでの声に応えて、装備してあります」とのこと。

STI製18インチ×7 1/2Jアルミホイールブレンボ製の対向4ピストンキャリパーが見えるタイヤは、ポテンザ RE050Aの215/45 R18

 インテリアについては、専用本革巻ステアリングホイール、アルカンターラ(グレーパンチング)/本革(ブラック)シートなど、STIコンプリートカーでおなじみのもの。座り心地がよく、肌触りのよいそのシートは、STIコンプリートカーらしい、高級感を演出している。エクシーガで特記するべき点は、7人乗りミニバンのため、前席だけでなく、2列目、3列目シートも、アルカンターラ/本革となっていること。さらに、ルーフトリムまでブラック化することで、特別な空間を作り出している。

専用本革巻ステアリングホイールなどを装備する運転席まわり専用スポーツルミネセントメーター(STIロゴ入り、240km/h表示)STI製本革巻ATセレクトレバー
3列目シート2列目シート2列目も3列目もアルカンターラ/本革シートでチェリーレッドステッチ入り

 エクシーガ tsで気になる点を挙げるとすると、EyeSightが装備されていないことだろう。これについては、「タイヤサイズやサスペンションまで変更した300台の限定車で、EyeSightの搭載を行えば、それだけ価格に跳ね返ってしまう」と言う。実際、タイヤサイズやサスペンションを変更したことからVDC(ビークル・ダイナミクス・コントロール)も専用VDCとなっており、300台限定で374万8500円という販売価格をこれ以上上げないための決断だったようだ。

 エクシーガに関しては、スポーティタイプの特別仕様車「2.5i spec.B EyeSight」が追加されているが、大きな違いはエンジン(特別仕様車は2.5リッターの自然吸気)とSTIならではの足まわりとなり、「エクシーガ tsは、300人のために作った、世界最速のミニバン」であり、「一度乗っていただければ、そのよさを感じ取っていただけます」(神作氏)とのことだ。

 現在、エクシーガ tsの試乗車は、スバル最大級のディーラーである「CAR DO SUBARU 三鷹」(東京都三鷹市)に用意されている。受注は10月28日までとなっており、おそらく試乗車が用意されるのも、その辺りまでだろう。神作氏は、この試乗車でSTIのtsシリーズに共通する、「すべての搭乗者が気持ちよいと感じるスポーティな走り味、強靭でしなやかな走りを体験していただきたい」と言っており、興味のある方は試乗に訪れてみるのもよいだろう。

 また、今週末、東京・お台場で開催される「モータースポーツジャパン 2012」にもSTIは出展するので、tsについての疑問点があったら、その場で確認してみるのもありだろう。

(編集部:谷川 潔)
2012年 10月 19日