試乗記

フォルクスワーゲンの227台限定車「ポロ GTI Edition 25」試乗 Bセグメントのホットハッチを選ぶなら今!

ポロ GTIの25周年を記念した限定車「ポロ GTI Edition 25」

日本では227台しか販売されない希少なBセグホットハッチ

「ポロ GTI Edition 25」は、ポロ GTIの25周年を記念した限定車だ。ポロ GTIが誕生したのは今から25年前の1998年。第3世代のポロから始まって実に四半世紀が過ぎたというわけである。ちなみにEdition 25の販売台数は世界限定で2500台。そのうち日本への割り当ては227台となっている。

 余談だが初代ポロ GTIも、もともとは3000台の限定車だった。そしてこれが市場に受け入れられたことで、2000年からカタログモデルとなった。また、世界的に見ても日本は「ゴルフ GTI」の人気が高かったことから、2代目ポロ GTIは2005年の東京モーターショーで世界初公開された。そして本国ドイツに先駆けて発売されたという歴史がある。

 そんなポロ GTIの25周年記念車は、言ってしまえばコスメ仕様車だ。つまりエンジン出力や足まわりの設定に特別な変更はなく、見た目と装備を充実させたモデルである。

 Edition 25でまず目を引くのはエクステリアで、そのボディは「アスコットグレー」にペイントされていた。これは標準仕様のポロ、T-Cross、T-Rocで人気のカラーであり、ポロ GTIには初採用。ベージュに近い明るい色調はシックだけれど今風で、とてもお洒落だ。

 このボディカラーに対してルーフはブラックになり(残念ながらカーボンではない)、ドアパネル下端にはバンパーまわりと同じハニカム柄のグラデーションがアクセントを添えていた。

 シャシー面では、これまでオプション扱いだった「“Sport Select”シャシー付きパフォーマンスキット」が標準装備された。これはモード切り替え時にエンジンやDSG制御と共に、ショックアブソーバーの減衰力も「ノーマル」「スポーツ」の2段階で切り替えられるシステムだ。合わせてタイヤは215/40R18サイズが標準となり、ここに7.5J×18インチのアルミホイールが組み合わされた。

今回試乗したのは4月25日に発売となった、ポロ GTIの25周年を記念した限定車「ポロ GTI Edition 25」(486万5000円)。全世界2500台限定のアニバーサリーモデルで、日本では227台が割り当てられる。ボディサイズはベースモデルのポロ GTIと同じく4085×1750×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm
エクステリアでは18インチアルミホイールやルーフ、ドアミラーをブラックで統一し、スポーティさを際立たせた

 インテリアではシートが運転席/助手席にシートヒーターを装備したレザー仕様になった。またオーディオは純正インフォテイメントシステムである「Discover Pro」を標準装備した。

 要するにEdition 25は、人気のオプションの豪華装備を最初から盛り込んだお買い得車だ。ちなみにその総額は普通にこれらを装備するよりも、8万3000円ほど安くなっているという。そしてここにヒーター付きのレザーバケットシートと標準仕様にはないボディカラー設定が選べて、日本では227台(なぜこんなにハンパな数字なのだろう?)しか販売されないという希少性が加わる。

インテリアではEdition 25専用のスポーツレザーシートやレザーマルチファンクションステアリングホイールにGTIを象徴するレッドのアクセントを施した。限定生産車であることを示す“One of 2500”と記されたドアシルプレートも与えられる

 とはいえ486万5000円という価格は、Bセグメントのコンパクトカーとして考えると絶対的にイニシャルコストが高い。たとえばあと31万円付け足すと、“素”ではあるがゴルフ GTIに手が届く。またポロに「R」グレードはないが、あればバッティングする4WDターボのGRヤリス「RZ」は483万円(8速AT)と、わずかだが安い。果たしてそれだけの価値がポロ GTI Edition 25にはあるのだろうか?

速度が高まるほど滑かになる乗り味

 ポロ GTIの魅力といえば、やはりこのクラスで2.0リッターの排気量を持つ直列4気筒ターボを搭載することだろう。その出力は207PS/320Nmと、同じユニットを分け合うゴルフ GTIと比べて38PS/50Nmほど低い。しかしポロ GTIは車重が1350kgとゴルフ GTIと比べて120kgも軽いから、その走りには結構パンチがある。ゴルフに比べて遮音性が低いことが逆に功を奏して、エンジンサウンドが割とダイレクトに車内へと入ってくるのもいい感じ。

ポロ GTIと共通の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力152kW(207PS)/4600-6000rpm、最大トルク320Nm(32.6kgfm)/1500-4500rpmを発生。WLTCモード燃費は15.6km/L

 そして7速DSGが、この加速をラグなくつなぐ。スポーツモードに入れてもクラッチミートがややダイレクト感に欠け、マニュアルモードを選んでもレッドゾーンの500rpmほど手前でシフトを上げてしまうのは少し残念。とはいえ全開のままシフトを許容し、相変わらず素晴らしいレスポンスを発揮するトランスミッションだ。

 これを支える足まわりは、忖度なしに言って硬めだ。とはいえダンパーは路面からの入力を懸命に減衰しており、フロントの2座に座る限りは、ノーマルモードなら許せる乗り味が得られていた。

 対してリアシートは、もう少しだけ細かい突き上げや揺れを許す。トーションビームながらもスタビライザーと共にその剛性をかなり高めているのだろう、ちょっと路面がわるいと試乗メモの文字は大いに乱れたが、硬めでも酔わない乗り心地だった。

 そしてこのエンジンパワーと引き締まった足まわりがゾーンに入ると、ポロ GTIはホットハッチとしての本領を遺憾なく発揮する。ややナーバスだった直進性は、カーブでタイヤに荷重が掛かればビタッと舵が落ち着く。ワインディングのような曲率が高いカーブで電子制御デフを効かせながらグイグイ曲げていくのも楽しいが、中高速コーナーにおける操舵フィールが絶品だ。速度が高まるほど滑かになる乗り味は、まさにドイツ的。未だにクラスを超えたと感じさせるボディ剛性がなせるワザだと思う。

 まとめればポロ GTIは、いまや絶滅寸前となったホットハッチの数少ない生き残りだ。室内に手動式のサイドブレーキが残されていることからも分かるとおり、世代的には1つ古い。高速巡航時におけるACCの制御も、最新のクルマたちに比べれば動きがかなり雑だ。

 それに486万5000円という価格は、まったくもって安くない。しかし今後これだけ気持ち良い走りができるコンパクトカーが現れるかというと、ちょっと疑問だ。ルノーが「ルーテシアR.S.」の生産を終わらせたように、環境規制を考えれば少なくとも2.0リッターターボを搭載するBセグメントのホットハッチはもう現れないと思う。よってそこに価値を見いだせるなら、いまポロ GTIを選ぶのはあり。そしてEdition 25は、その背中を後押ししてくれるファッショナブルさを持っている。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:安田 剛