試乗記

原点回帰、ランドクルーザー新型車「250」を「300」「70」「プラド」と乗り比べ

原点回帰のランドクルーザー250、左が通常バージョン、右が丸目ライトを装備した特別仕様車 ZX“First Edition”

原点回帰のランドクルーザー250

 世界に轟くランドクルーザーに「250」が登場した。「プラド」の後継というよりもランクルの原点に立ち返り、よりタフな、よりシンプルなランクルである。

 シリーズ名を数字に統一したことで各車のポジションも明確になった。すなわち発展し続けてきたランクルを代表する“300”、働くクルマを象徴する“70”、そして今回の“250”はランクルのDNAである信頼性、耐久性を鍛えた中核シリーズになる。

ランドクルーザーと一目で分かる250。さなげアドベンチャーフィールドで本格オフロードコースを試乗した

 250は300系と同じ堅牢なGA-F系ラダーフレームをベースとして、オンロードとオフロードの両面で高い快適性と走破性を目指した。

 ランクルとしては初の採用となるEPS(電動パワーステアリング)も悪路走破性への進化の一つだ。またSDM(Stabilizer with Disconnection Mechanism)は、コンソールスイッチでスタビライザーを切り離してサスペンションのストロークを稼ぐことができるロック/フリーを自在に行なえる。オフロードには必須アイテムで、ランクルらしい装備になる。

 また、パワートレーンは2.8リッターの直列4気筒ディーゼルターボ+8速Direct Shift AT。センターデフはトルセンデフでロック機構付きでリアデフもロックが可能、トランスファーはHi/Lo機構を持つのもオフローダー、ランクルの伝統である。

 GA-Fプラットフォームは、250では端正なデザインを成立させるために前半部を大幅に変更している。フロントオーバーハングを短く抑えるために大型のSDM付きのスタビライザーをサスペンションボールジョイントの後方に移動し、そのためにフロントサスペンションのジオメトリーも含めてすべてを作り直す大がかりなものだ。

 内装はシンプルで気品があり、必要なスイッチはブラインドタッチで操作できるように配置された優れものだ。路面から視線を外さずに確実に触れられるのは本物の証だ。

250の運転席まわり

 LC250は決して小さいクルマではない。4925×1980×1935(全長×全幅×全高)というLサイズだが、アップライトに座るドライバーシートから見る視界は300系以上に明快だ。ボンネットの左右がシッカリと見えること、サイドウィンドウの下端が低いこと。さらにドアミラーの取り付け位置が前に移動していることでキャビンは明るく視界は広い。

本格的オフロードコース、さなげアドベンチャーフィールドで試乗

250を先頭にずらりと並んだランドクルーザー

 さなげアドベンチャーフィールドの試乗時に選択したトランスファーモードは駆動力の高い4Lo。センターデフをロックし、さらにSDMはオンでサスペンションストロークを伸びるようにしてコースに出る。また駆動力配分を決めるMTS(マルチテレインセレクト)をオンにし、5つあるモードの中でAUTOを選ぶ。スリップしている状態に合わせて自在に駆動力を変化させる万能モードだ。

 GA-Fラダーフレームとボディがカチリと8か所で締結された剛性感は300系と同じで安心感があって頼もしい。加えて電動パワーステアリングは大きなトルクがあり操舵力も軽く、悪路でのキックバックからも守ってくれる。これだけでもコントロール性は驚くほど向上する。

林道コースを走るランクル250。ランクルならではの走りを堪能した
250,300,70,プラドとすべての試乗車はディーゼルタイプのもの。これは250の1GD-FTV型。直列4気筒2.8リッターターボで、最高出力150kW(204PS)/最大トルク500Nmを発生する

 また、8速ATはワイドレシオで各ギヤの連続したつながりが素晴らしく、アクセル開度に応じて滑らかに加速していく。ドライバーの意思に忠実だ。例えばプラドは走り出しで少し間をおいてから加速するが、それとは明らかに異なる。悪路をジワリと走りたいときは特に扱いやすい。これまで培ってきたノウハウに磨きをかけたというのが第一印象だ。

 ちなみにさなげには250のほか、300、プラド、そして70が置かれており、それぞれのキャラクターを確認できた。

 250に乗り込み、狭いアップダウンのある林道を走り出して感じるのが、見切りのよい視界とともにセンターディスプレイに映し出されるフロントサイドカメラとアンダーフロアビューだ(後退時には後輪を映し出す)。ボンネットに隠れた直前視界も確認でき、狭い林道も不安なくコーナーを抜けられる。

 250は絶えず現れる獣道のようなコースを舐めるように走る。なかには急な下り坂が現われる。1~5km/hの範囲で速度を決められるクロールコントロールをオンにしペダルから足を離し、クルマ任せで滑りやすい急坂を下りる。途中でフットブレーキを踏んだりアクスルを足しても離せば元の速度に復帰する。

 雨の後で滑りやすくなったダートでは常に最適な駆動力配分で安定した走行ができ、サスペンションの接地性の高さに驚き、路面がわるくなるほど原点回帰した250の真価が発揮される。しかも悪路でも突き上げが小さく驚くほど乗り心地がよい。

 サスペンションストロークは300系のGRスポーツではスタビライザー効果調整機能であるE-KDSS(Electronic-Kinetic Dynamic Suspension System)がありタップリしているが、250でもフロントのサスペンションストロークは220mm、リアは230mmあってプラドよりは10%ほど長い。ちなみに300系はフロント245mm、リア260mmとリバウンド側が長く取れており接地性が高い。しかし300系に近い快適な乗り心地を手に入れたのが250だ。

 余談だが昨年ビッグマイナーを受けた70は、250と同じ1GD-FTV型エンジンを積むために、歩行者衝突の安全性を高める必要からボンネットが高くなり、新しい丸形ヘッドランプで精悍になった3ナンバーボディとなった(1や4ではないのが新鮮だ)。

 軽量な70は駆動力システムの自動化は限られているが、自分で駆動力を選択して走破する楽しみがある。6速ATでイージーになったランクル最小のサイズはやはり魅力だ。

 さらに乗り心地とトラクションの向上は目をみはるばかり。リアのリーフスプリングは形状を工夫し、6枚からテーパー形状の2枚になったことでフリクションを低減し、強靭でしなやかに動くようになった。ラダーフレームの締結感は250におよぶべくもないが、愛着の湧くワークホースであることに変わりはない。

現代のワークホース、250

ROCK坂を上っていくランクル250。ホイールアーティキュレーション(タイヤの浮きづらさ)に優れていることが分かる

 試乗の後半では大きな岩がゴロゴロするROCK坂にも挑戦した。アンダービューモニターを駆使して、行先を見極めながらよじ登っていく。

 大きな岩が角を向けて立ちふさがる。ラインをミスしたり、あるいは岩に足を取らて横滑りして再挑戦する70やプラドもいる。立ち往生したのは私も同じで300系の駆動力と接地性を過信してしまい、一端後退する羽目になったが、すぐに発進できたのはやはり300系のストロークの長いサスペンションのおかげだ。

 250では慎重に挑戦したので容易にこの難関を乗り越えられた。

 軽くてグランドクリアランスの大きい70系では元気に力強く登坂できたことも付け加えておこう。

 70は面白いがいつも容易に成功するとは限らない。しかし250はドライバーの技術に頼らなくても難所を切り抜けられる。これが現代のワークホース、ランクルに求められるものではないだろうか? 250の実力とフィロソフィーを確認できたオフロード試乗だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学