インプレッション

BRP「Spyder F3-S」/ピアッジオ「MP3 Yourban 300」

 JAIA(日本自動車輸入組合)は、4月7日~8日の2日間にわたって輸入オートバイの試乗会をメディア向けに開催。会場には、BMW Motorrad、BRP、Ducati、Harley-Davidson、aprilia、MOTO GUZZI、Vespa、Piaggio、Triumph、Indian、Victoryという11ブランド40車種が集まった。

 JAIA初の試みとなった「合同二輪車試乗会」では、インポーターが導入する新型バイクのほか、「逆トライク」カテゴリーに属するBRP製「Spyder F3-S」や、3輪スクーターのピアッジオ製「MP3 Yourban 300」にも試乗することができた。

前2輪/後1輪のスポーツモデルBRP「Spyder F3-S」に試乗

Spyder F3-S

 今回試乗したSpyder F3-Sは、写真の通り前2輪/後1輪の3ホイーラーで、真上から見るとタイヤが三角形の位置関係で構成されているのが特徴だ。2輪バイクに側車が付いた「サイドカー」は直進時のタイヤ軌跡が2本だが、逆トライクはタイヤ軌跡が3本となる。ここがサイドカーとの決定的な違いだ。また、タイヤ軌跡は3本あるものの、逆トライクと違って前1輪、後2輪となる構成の乗り物もある。これは逆トライクに対して「トライク」と呼ばれている。

 トライク類は道路交通法上の「3輪の自動車」に分類され、ナンバープレートの交付を受け公道での走行が可能。また、高速自動車国道や自動車専用道路を走る場合は、バイクと同じく搭載エンジンが125cc以上であることが必須となり、その場合の法定速度は80km/hとバイクより20km/h低いが、通行料金はバイクと同じとなる。

 Car Watchのニュースで紹介したツーリング志向の「Spyder RT Limited」とは違い、Spyder F3-Sは乾燥重量で成人男性一人分に近い73kgも軽量化が図られ、随所に専用パーツをおごるなどスポーツモデルとして仕立てられている。

こちらはSpyder RT Limited
試乗前にBRPジャパンのスタッフから説明を受ける筆者
Spyder roadster(撮影/西村直人:NAC)

 筆者は以前、 F3-Sの前身であるV型2気筒エンジンを搭載した「Spyder roadster」に長期間試乗しているが、「F3-Sは少し重くなっているが運動性能は大幅にアップした」と試乗前にBRPジャパンのスタッフから説明を受けたこともあり、アグレッシブな外観と併せ、かなりのやんちゃぶりを期待した。

 エンジンはRT Limitedと同じBRPの子会社であるロータックス製。水冷直列3気筒ユニットは115PS/7250rpm、130Nm/5000rpmをそれぞれ発生し、前進6速+バックギヤ付トランスミッションと組み合わされる。試乗モデルはセミオートマチックタイプで、左手の人差し指(シフトアップ)と親指(シフトダウン)のボタン操作によりギヤ段が切り替わる。ベースモデルは通常のクラッチレバー付きのマニュアルトランスミッションタイプで、こちらはバイクのように左手でクラッチレバーを操作する。

 セミオートマチックタイプは、このマニュアルタイプをベースにクラッチ操作を電子制御化したもので、RT Limitedと同じくクラッチレバーはない。ライダーとしてはクラッチ操作から解放されるため、市街地走行からワインディング路だけでなく、頻繁なクラッチ操作が要求される渋滞路でも非常に快適だ。ただし、オートマチックモードはないのでシフト操作は常にライダーの役割として残る。

 F3-Sの車体フレームは中央部から後ろがコンパクトにまとめあげられており、RT Limitedよりもボディー後半はかなりスリムな設計だ。舵の役割を担う前輪は傾斜しない。ブレーキはローター直径こそRT Limitedと同じ前後とも270mmだが、F3-Sの前キャリパーは高いブレーキ剛性が期待できるラジアルマウント方式とした。真横からのシルエットは背の低い大型バイクのようだが、正面に回ってみると軽自動車枠を超える車幅(1497mm)のボディーが醸し出す独特のフォルムは小型フォーミュラカーのようにも見える。

 シート高は675mmと原付きバイク並みだが、メインフレームが太いこともあり、跨ってみるとニーグリップはしやすいが足は開き気味。さらに、ホンダのビッグバイク「ゴールドウイング」よりも足付き性は悪く、乾燥重量386kgとくれば、さぞかし取り回しに苦労しそうだが、拍子抜けするほど不安感はない。なにしろ自立するわけで、渋滞だろうが坂道だろうが苦にならないからだ。リターンライダーの多くが抱える立ちゴケの心配とは無縁の世界といえる。

 アクセル操作はバイクと同様に右スロットルを捻るだけだが、その走りは前評判通りにめちゃくちゃパワフル! 加速力の指標であるパワーウェイトレシオは約3.3kg/PSと、ロータス「エキシージS」と同等で、さらに駆動は後輪1輪だけであるため、ヘビーウエット路での全開加速では1速から3速までホイールスピンが止まらない。オフ機能を持たない「トラクションコントロール」を標準で装備するも、スポーツモデルであるF3-Sはダイナミック性能を重視しているため、挙動が不安定にならない程度のホイールスピンは許容する。

 気をよくして、そのまま景気よくスロットルを開けていくと、図太い排気音とともに7500rpmあたりまでかなりの加速度を伴い突き進む。ツーリング志向の強いV型2気筒モデルのroadsterでは味わえなかった直列3気筒エンジン特有の中速域でトルクの谷も、2段階加速フィールの演出にはひと役買っている。

 このように加速操作や加速感はバイクそのものだが、一転、ブレーキ操作は大きく違う。フロントブレーキを操作するための右レバーがないからだ。減速操作はバイクでいうところのリアブレーキを操作する右ステップレバーを踏み込むだけ。このワンアクションでリアブレーキに加え、2つの前輪ディスクブレーキを合わせた3輪すべてに対して最適な制動力が立ち上がる。

 前後ブレーキバランスは適正で、ABSを標準装備するが早期介入もない。また、旋回ブレーキを試みても高い減速Gが保たれるし、80→0km/hのハードブレーキングでもレバーの踏み込み量に比例した確実な減速性能を発揮する。右ステップレバーのみの減速操作は最初こそ戸惑うが、普段からリアブレーキを積極的に使うライディングスタイルであれば、わりとすんなり受け入れられる。

 注意すべきは、通常のバイクでは体感できない前2輪による強烈な減速Gだ。取材当日は、本降りの雨の中での試乗となったが、それでも4輪車の最大減速Gの目安とされるマイナス1Gの70%程度は右足1つで優に引き出せる。制動距離の短さは安全性を向上させるため手放しに歓迎したいが、実際問題、高い減速Gに耐えられるだけのしっかりとした二ーグリップ可能な脚力と、上半身を支える腹筋や背筋、そして腕力など体力づくりの必要性を強く感じた。

 コーナリング時は逆トライク独特の特性を意識する。フロントサスペンション形式はRT Limitedと同じだが、前ダンパーはRT Limited のSACHS製の油圧ダンパー方式(ホイールストローク174mm)に対して、より減衰力が高くケース剛性も高いFOXのアルミニウム製ダンパー方式(同128.9mm)に変更。リアサスペンションは両車ともスイングアーム式ながら、RT Limitedのエアダンパー方式からSACHSの油圧ダンパー方式(同132.4mm)へと変更することで、軽量化とともに前後サスのロール剛性を大幅に高めている。なお、装着タイヤ&ホイールは前後ともRT Limitedと同じ逆トライク専用品だ。

 基本的なステアリング特性は両車ともに同じ方向性でクセは非常に少ない。厳密には低速域での軽さが活きるF3-Sに対して、RT Limitedは重さを終始意識するなど違いがあるものの、オーナーとなってしまえば手中におさめるのは容易と思われる。また、両車ともにパワーステアリングを装備するが、ライディングポジションとハンドル形状の違いによりF3-Sのアシスト量は弱めに感じられる。

 50km/hから上の速度域における旋回や、積極的に荷重を前外車輪に掛けたスポーツライディングでは両車に大きな違いが見られる。具体的には、F3-Sのスポーツライディングではダイナミックな体重移動とともに、気持ちアクセル開度を大きくしなければ意図した旋回軌跡よりも大回りになってしまう。これは前輪が上下のストローク方向には動くものの、バイクのように内傾しない機構上からくる特性で、以前試乗したサイドカーより、雪の上を走るスノーモービルの旋回特性に近いと感じた。

 また、高速域ではバイクでは味わえない重厚な直進安定性が光る。しかし、前輪に荷重が偏る下り坂での高速コーナーでは微妙な修正舵が必要になる。さらに、下りながらコーナリングするような、いわゆるスパイラルバンク角がついた路面で大きなギャップを食らうと、スパイラルバンク方向に前転しそうな挙動になることがある。これはF3-Sに限った事象ではなく、前2輪/後1輪の逆トライク特有の特性で、車両の安定性という観点からみれば数少ない留意点といえる。

 もっとも、BRPとしてもこうした特性に対し、車両挙動安定機構である「スタビリティコントロールシステム」を標準装備化することで対処済みだ。これはクルマのような横滑りを防止するという目的ではなく、不安定な姿勢に陥りそうなピッチングやヨーモーメントが発生しそうだと判断された場合、適正な車輪に対して瞬時に制動力を立ち上げることで車両の浮き上がりを防止するという、いわば逆トライク専用のADASといえよう。

 “転ばないバイク”に代表される逆トライクの魅力は大きい。見た目から来る注目度もバツグンだ。また、クルマに比べれば道路占有面積が小さいため、パーソナルモビリティとしての素養も高い。日本での販売も好調で、バイクと比較して一度に長い距離を走るライダーも多いという。オプション装備となるがパニアケースやトップケースに加えて、専用のトレーラーも用意されている。

 なお、運転には普通免許(自動車免許)が必要だ。AT限定普通免許や大型自動二輪免許だけでは運転ができないのでご注意を。

3輪バイクのピアッジオ「MP3 Yourban 300」にも試乗

ピアッジオ「MP3 Yourban 300」
ヤマハの3輪バイク「トリシティ」(撮影/西村直人:NAC)

 今回はもう1台3ホイーラーであるピアッジオ製「MP3 Yourban 300」にも試乗した。ヤマハの3輪バイク「トリシティ」が日本でも発売されているため馴染のある読者も多いかもしれないが、MP3は3輪バイクの先駆けの1つとして、石畳道路の多い欧州各国での人気が高い。

 前輪には独立懸架方式のクアトロ・リンク・サスペンション(ダンパーはスクーターである「ベスパ」と同部品)を採用して40度近いバンク角を確保しつつ、クローズド・ダブルクレードル・スチール・フレームと太いスイングアームが組み合わされたツインダンパー方式のリアサスペンションを組み合わせた。

前輪には独立懸架方式のクアトロ・リンク・サスペンション
パーキングブレーキのレバー
ピアッジオ「MP3 Yourban 300」

 MP3の特徴はご覧のとおり、前輪ロック機構によって自立可能であること。しかも停車時だけでなく、走行中であっても減速しながらの微速域(約10km/h以下)であれば、右親指によるスイッチ操作1つで自立させることができるので、上手に使えば信号待ちなどで足を地面に着けて車体を支える必要がない。これは原二種スクーターを都内における移動の足にしている筆者にとって、それだけでも十分に買い替えの理由になるくらい衝撃的だった。また、発進時はスロットルを開ければジャイロ効果が出始める絶妙なタイミングで自動的にリリースされるため、実用性はすこぶる高い。

 278cc水冷単気筒エンジンは22.4PS/7500rpm、23.2Nm/6500rpmと、乾燥重量206kgを走らせるには十二分なスペック。クローズドテストコースでは120km/h以上での巡航も可能だ。250ccを超えることから車検が必要になるものの、コンパクトなボディーからは想像できない直進安定性の高さと、豪雨のなかでも安心してフルバンク走行ができるだけでなく、ABSは付かないがバイク比2倍の前輪接地面積によってフルブレーキが躊躇なく行えるなど、安全性の面からも3輪バイクのメリットは非常に大きいといえる。

BMWのビッグスクーターなど最新のバイクに触れて

BMWのオフロードモデル「R1200GS」
BMWのビッグスクーター「C 600 Sport」

 最後はBMWが販売するカテゴリー違いの2台に試乗した。筆者は長年BMWのバイク、「K100RS2V」「K100RS4V ABS」の2台が愛車であったため、BMWが雨に強いことは身をもって体感しているが、改めて人気オフロードモデル「R1200GS」や、Car Watchの試乗インプレッションでも紹介した「i3レンジエクステンダー」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20140516_647980.html)の発電機として使われている直列2気筒エンジンを搭載したビッグスクーター「C 600 Sport」に試乗してみると、グリップヒーターやシートヒーターに加えて、カウルやスクリーンなどの形状に工夫を凝らすことで、ライダーの身体的負担を極力減らす技術が織り込まれていることに甚く感心させられた。

 高いといわれてきた車両価格だが、日本メーカーのビッグバイクも高性能化により高価格帯へと移行していることから、今では価格の上ではイーブンであり、豊富なオプション装備群のラインアップを考えれば高いといえなくなってきている。

 リターンライダーといわれる年代になった筆者だが、ひよっこライダーであった27年前の私の眼に憧れとして映っていたベテランライダーのように颯爽といつまでも乗り続けていきたいと、最新のバイクに触れてその思いを新たにすることができた。

会場にはハーレーダビッドソンのトライクも

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員